【連載】今日から使えるミリタリー雑学講座~第19回 日本の防衛産業メーカーまとめ

前々回のアメリカ、前回のヨーロッパに続いて、今回は日本の防衛産業のメーカーを紹介します。
日本の防衛産業はこれまで、武器輸出三原則により装備(兵器)の国外移転が事実上不可能だったため、基本的に国内、つまり防衛省からの受注によって事業を成立させてきました。
このため、輸出ができるアメリカやヨーロッパ、ロシアなどの大手メーカーと異なり、防衛部門だけで成立している大手企業は存在しません。

日本の防衛産業に携わるメーカーの中で、現在の売上高、過去の実績などいずれの面においても、頭一つ抜けているのが「三菱重工業」です。
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三菱重工でライセンス生産されるF-15J

三菱重工業は1934年に三菱グループの航空機製造部門である三菱航空機と、造船部門である三菱造船が合併して誕生した企業。零戦や戦艦「武蔵」など、歴史に名を残す兵器を数多く開発・生産してきました。
太平洋戦争の終結後、GHQ(連合軍総司令部)の財閥解体により、三菱重工業は東日本重工業、中日本重工業、西日本重工業の3社に分割されてしまいます。また敗戦により陸海軍が解体された上、航空機の開発・製造が禁止されたこともあって、サンフランシスコ講和条約によって日本が再独立を果たし、自衛隊が誕生するまでの間に、さまざまな民生品を手がけていました。
当時の航空機の主要な素材で、敗戦後に不要となったジェラルミンを使った自転車や、やはり兵器の素材であった金属を用いた、鍋やスコップなどを製造していたという記録が、三菱重工業の社史に残されています。
その後1964年に分割された3社が合併して誕生した三菱重工業は、常に日本の防衛産業をリードし続け、現在も自衛隊の護衛艦や潜水艦、航空機や戦車などを幅広く手がけています。

戦前から三菱重工業のライバルであった「川崎重工業」は財閥系企業でなかったため、三菱重工業のように分割や社名変更を経験せず、現在も三菱重工業に次ぐ大手として、海上自衛隊のP-1哨戒機やそうりゅう型潜水艦などを手がけています。
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ブルーインパルスも使用するT-4練習機は川崎重工の設計によるもの

また、戦後同社の主要な事業の1つとなったオートバイが陸上自衛隊に採用されるなど、民生品として開発された製品も、自衛隊に数多く納入されています。

旧日本陸軍の四式戦闘機「疾風」など数々の名機を生んだ中島航空機は、三菱重工業と同様、財閥解体などの紆余曲折を経て「富士重工業」となっています。
また、旧日本海軍の二式大型飛行艇や、戦闘機「紫電改」などを生んだ川西航空機は、GHQによる航空機の開発・製造禁止令を受けて産業機械などの民生品を手がける「新明和工業」に社名を変更し、現在に至っています。
現在の富士重工業は「スバル」ブランドの自動車、新明和工業は自走式駐車場や特殊車輌をメインの事業に据えていますが、航空機メーカーとしてのDNAは今も両社に脈々と受け継がれており、富士重工業は陸上自衛隊向けの偵察用ドローン「FFOS」などを、新明和工業は川西航空機時代から得意としていた飛行艇の開発・製造を、それぞれ手がけています。
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海上自衛隊の飛行艇US-2

新明和工業の飛行艇「US-2」は、現在他国が製造している飛行艇に比べて大型で、また荒れた海面での運用能力が高いことなどから海外でも注目されていて、インドやインドネシアなどとの間で、輸出に向けた話し合いが行なわれています。

これらのメーカーに引けをとらないほど長い歴史を持ち、企業としての知名度が高いにもかかわらず、防衛産業のメーカーとしてのイメージが薄いという「意外な企業」もいくつかあります。

企業ゆるキャラのさきがけである「ぴちょんくん」でおなじみの「ダイキン工業」といえば、一般的にはエアコンや冷蔵庫のメーカーというイメージがありますが、、元々は国営兵器メーカーである陸軍大阪砲兵工廠の職員が立ち上げた企業。戦前は軍艦の砲弾の開発・製造を得意とするメーカーでした。
当時の砲弾は温度管理を怠ると火薬が自然発火するおそれがあり、軍艦の弾薬庫は空調装置による厳重な温度管理がなされていました。海軍に砲弾を納入していた縁から空調装置の開発・製造を依頼されたダイキンは、空調装置や冷却装置を手がけるようになります。敗戦により旧日本軍が解体されて後は、軍艦などのために開発した空調装置や冷却装置の技術を活かして、現在の地位を築き上げたというわけです。
その後自衛隊が創設されると、ダイキンは砲弾などの製造に復帰。現在は10式戦車をはじめとする戦車の砲弾や砲弾の信管などの製造を手がけています。
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建設機械のトップメーカーである「小松製作所」も、戦前は戦車の履帯(キャタピラ)や、軍用のブルドーザーなどの生産を手がけていました。
戦後も小松製作所は陸上自衛隊向けの装甲車輌を数多く開発・製造してきましたが、どういうわけか同社のお家芸である履帯を使って走行する装軌式車輌の数は少なく、軽装甲機動車や96式装輪装甲車といった、タイヤを使って走行する装輪式車輌を数多く手がけています。
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航空自衛隊の軽装甲機動車

また、サバゲーマーにとっては意外な話ではないと思いますが、リアルな電動ガンやガスガンでおなじみの「東京マルイ」も、実は防衛省に製品を納入している防衛産業のメーカーといえます。
東京マルイの89式小銃の電動ガンはリアルさに定評がありますが、それもそのはずで防衛庁(当時)から実銃のデータの提供を受けています。防衛庁が実銃のデータを提供したのは、実銃の使用が難しい屋内などでの戦闘訓練に電動ガンを使うというアイデアに基づいたもので、その後完成した89式小銃の電動ガンは、「閉所戦闘訓練用教材」または「89式小銃型訓練用電動ガン」の名称で防衛省に採用され、訓練に使用されています。

前にも述べたように、日本の防衛産業は防衛省からの発注を受けて装備品の開発・製造を行ってきたため、輸出の成功によって多きな利益を得ることもない代わりに、輸出を見込んで自社資金で開発した兵器が売れずに経営が傾くといった事態もなく、またほとんどのメーカーが一方で民生品を手がけていることもあって、海外メーカーに比べて経営が安定しています。
このため、企業の売却や合併などはほとんど行なわれてきませんでしたが、2013年には掃海艇などを手がけてきたユニバーサル造船と、護衛艦などを手がけてきたIHIマリンユナイテッドが合併して、ジャパンマリンユナイテッドが誕生するなど、業界再編に向けた動きも少しずつ起こっています。
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来年度の防衛予算の概算要求が5兆円を突破したことが話題になっていますが、そのほとんどは自衛隊員の給料や、今年度までに一種の「ローン」で購入した戦闘機や護衛艦などの代金の支払いに消えてしまいます。
こうした環境の中で、防衛産業に携わるメーカーもどう生き残るかに頭を痛めており、今後は日本でも生き残りのための、合併や企業売却などが増えるかもしれません。

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竹内 修

ライターから不動産シンクタンクを経て、ミリタリー業界に迷いこんできた
自称軍事評論家。サバゲーは長期休業中だが、運動不足解消を兼ねてまた始めよ
うかなと思案する今日このごろ。L85とかF2000のような、ちょっとクセのある銃
が好き。

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