【連載】今日から使えるミリタリー雑学講座~第16回 陸海空の兵器ごとの燃料事情とは?

「艦隊これくしょん」(艦これ)の夏イベントで、新たな艦娘「速吸(はやすい)」が加わったようですね。
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静岡ホビーショーに出店されたアオシマ1/700「速吸」

ゲームでの能力と同様、艦隊と行動を共にして給油だけでなく補助空母的な役割も期待されていた「速吸」は、ある程度の速力を発揮する必要がありました。そのため、戦艦や空母などと同様に重油を燃料として使用していましたが、日本海軍で最も多い7隻が建造された能登呂型給油艦(タンカー)は、貴重な石油の消費を避けるために石炭を燃料としていました
日本海軍の艦艇では能登呂級以外にも給糧艦(補給艦)「間宮」も石炭が燃料でしたし、同じく給糧艦の「伊良湖」は、やはり石油の消費を少しでも減らすため、重油と石炭を併用しています。
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静岡ホビーショーに出店されたアオシマ1/700「間宮」

第二次世界大戦の時点で燃料の主流は石炭から石油へと移行しましたが、その一方で石炭や天然ガスを精製して製造された「人造石油」という燃料も使用されていました。
日本と同様に石油資源を持たないドイツは、各国に先駆けて石炭を液化した人造石油の製造に取り組み、1927年に実用化にこぎつけています。
第二次世界大戦中のドイツは同盟国であったルーマニアの油田で産出された石油を使用していましたが、連合軍の反抗でこの油田を失っても、航空機や戦車など近代兵器を使い続けることができた理由の一つが、この人造石油になのです。
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燃料切れで遺棄されたといわれているドイツのティーガー2(1944年ベルギー)

実は日本でも人造石油の研究を進めていましたが、官庁間の縄張り争いなどにより事業化が遅れ、ドイツのような大量生産には至りませんでした。
人造石油は純粋な石油から精製されたガソリンに比べれば劣りますが、第二次世界大戦末期の粗悪なガソリンよりは品質が高く、エンジンの性能をより引き出すことができたと考えられます。
もし人造石油が実用化されていたら、旧日本軍の戦闘機は大戦末期の航空戦で、もう少し善戦したかもしれません。
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零戦に搭載された栄発動機の銘板には使用燃料の項目もある(レプリカ)

第二次世界大戦時のレシプロ・エンジンでプロペラを回転させる航空機はガソリンを燃料として使用していましたが、現代のジェット・エンジンを動力とする航空機は灯油の主成分である「ケロシン」か、これにガソリンの主成分となるナフサを加えた、「ワイドカット」と呼ばれる、2種類のジェット燃料のいずれかを使用しています。
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海上自衛隊のP-3C

海上自衛隊が運用している「P-3C哨戒機」はプロペラ機ですが、ジェットエンジンの一種であるターボプロップ・エンジンを動力源としているのでジェット燃料を使います。また、ヘリコプターの動力として主流となっているターボシャフト・エンジンもジェットエンジンの一種であることから、やはりジェット燃料を使用しています。
軍用機に限れば、ガソリンを燃料とする航空機は今や少数派といえるでしょう。

第二次世界大戦当時の戦車の多くは、ガソリン・エンジンを動力源としていましたが、現代の戦車の大多数はディーゼル・エンジン。燃料には軽油を使用しています。軽油はガソリンに比べて安価な上、引火や爆発しにくいというメリットがあるため、戦車の燃料としてはうってつけといえるでしょう。
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ディーゼル・エンジンが主流となっている現用戦車の中で異端児といえるのがアメリカの「M1エイブラムス」とロシアの「T-80」
両者はヘリコプター用のターボシャフト・エンジンをベースとしたガスタービン・エンジンを動力源としているため、燃料には航空機用のジェット燃料を使います。
ガスタービン・エンジンにより、M1とT-80は他の追随を許さないほどのダッシュ力を得ましたが、ディーゼル・エンジンに比べて燃費効率が悪く、またジェット燃料は軽油に比べて高価。
石油資源が豊富で、かつ燃料の補給体制が整っていなければ、その能力をフルに活かすことができないという難点もあります。

第二次世界大戦時の軍艦の多くは、重油を燃焼して蒸気タービンを回転させ、その力でスクリューを回転させる推進方式でしたが、現代の軍艦では低速航行時にディーゼル・エンジンを、高速航行時にはガスタービン・エンジンを使用する、コンバインド・ディーゼル・オア・ガスタービン(CODOG)が主流に。
燃料はディーゼル・エンジンとガスタービン・エンジンの両方に使用可能な軽油を用いることが多くなっています。
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海上自衛隊の護衛艦への給油の様子

また、原子力機関も軍艦の動力として有望視されており、一時は原子力推進の水上戦闘艦も建造されました。
しかし原子炉は石油や石炭を動力源とする機関に比べて取得や維持にかかるコストが高く、また使用済みの原子炉の処理などで、廃艦後にも莫大なコストがかかります。ディーゼル・エンジンなどと異なり酸素を必要しないため、長期間の連続潜航が可能となる潜水艦や、自艦用の燃料が不要で、その分航空機燃料を搭載できる空母のような高コストを補うメリットのある艦種にしか採用されていません。

使用される燃料の種類は変化しているものの、兵器の燃料が石油を原料としていることには変わりはありません。
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航空自衛隊の航空機燃料輸送車

このため各国は貴重な石油資源をなるべく使わずに兵器を動かす方法の研究に取り組んでいます。
アメリカはジェット燃料に植物を原料とするバイオ燃料を混合した燃料で、F/A-18などを実際に飛行させる実験も行っているほどです。

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竹内 修

ライターから不動産シンクタンクを経て、ミリタリー業界に迷いこんできた
自称軍事評論家。サバゲーは長期休業中だが、運動不足解消を兼ねてまた始めよ
うかなと思案する今日このごろ。L85とかF2000のような、ちょっとクセのある銃
が好き。

投稿者記事

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