【連載】今日から使えるミリタリー雑学講座~第14回 夏だ! 海だ! 掃海だ!

「夏といえば海!」というのは、あまりにベタなフレーズですが、この季節は海に行きたくなりますよね。
今でこそ平和なイメージがある日本の海ですが、ほんの数十年前まで、とある危険に晒されていました。太平洋戦争中にアメリカ軍は、日本国内の物資の輸送を妨害する「飢餓作戦」を行い、B-29爆撃機などから日本近海に大量の機雷を撒布。その総数は12,000個以上といわれています。
その中の半数にあたる約6,000個は太平洋戦争の終結後も処理されないまま残り、1950年までに118隻の船舶が機雷によって沈没。多くの犠牲者が出ています。

このため海上保安庁と海上保安庁内の組織として発足し、後に海上自衛隊に発展改組された「海上警備隊」は、戦後の早い時期から機雷の掃海を実施。
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画像は海上自衛隊掃海隊群のwebより

アメリカ軍が撒布した機雷と旧日本海軍が防御用に撒布した多数の機雷を処理してきました。機雷処理に関していえば、海上自衛隊ほど豊富な経験を持つ組織は他に見当たらないといってもいいでしょう。
「飢餓作戦」によって日本の海運が壊滅的な状況に追い込まれ、戦後も長期間に渡って機雷と戦い続けてきたことから、海上自衛隊は現在も対機雷戦能力を重視しており、機雷を処理する掃海艦や掃海艇を26隻も保有。この数は先進諸国の海軍の中では群を抜いています。

機雷にはいくつか種類があります。
機雷の突起に船舶が触れると爆発する「触発機雷」
船舶の磁気に反応する「磁気機雷」
音に反応する「音響機雷」
航行中に起こる水圧の変化に反応する「水圧機雷」など。

現在の船舶や艦艇の大多数は磁気を帯びた金属構造のため、処理する前にやられてしまう可能性があります。
このため多くの国では、掃海艇の船体に強化プラスチックを用いますが、海上自衛隊の掃海艇の大多数の船体には木が使われています
木造船は強化プラスチック構造のフネに比べて値段が高くつきますし、また耐久性も劣りますが、海上自衛隊はより安全かつ確実に任務を達成するため、あえて木造の掃海艇を造り続けてきました。
ただ、21世紀に入ると木材と木製船を作る技術者の不足が深刻になり、2012年に1番艇「えのしま」が就役したえのしま型掃海艇からは、船体に強化プラスチックが使われています。
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掃海艇「えのしま」~画像は海上自衛隊のwebより

えのしま型には掃海艇が曳航する機雷の掃海具のほかに、自ら機雷を探知して爆雷などによって処分する遠隔操作式の機雷掃討装置「S-10 水中航走式機雷掃討具」が搭載されています。
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「S-10 水中航走式機雷掃討具」~画像は海上自衛隊のwebより

かつて発見された機雷の処分は、海上自衛隊では水中処分員と呼ばれるダイバーが手作業で行っていましたが、この方法では処理に失敗した場合、人命が失われる可能性が高いことから、現在では機械による処分が主流となっています。
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「S-10 水中航走式機雷掃討具」~画像は海上自衛隊のwebより

S-10は就役当時、機雷を探知する可変深度ソナーと機雷処分具を備えた世界初の実用無人機雷掃討具として注目を浴びましたが、先進諸国では機雷本体の破壊ではなく、炸裂するとプラズマが発生し、そのプラズマで機雷の信管を破壊するタイプや、機雷の探知と処分を自律航行型のUSV(無人水上艇)とUUV(無人潜航艇)、つまりロボットに行なわせるものなど、より先進的な機雷掃討システムが開発されています。
このため、えのしま型の建造経験を活かして開発が進められている新型機雷掃海艦には機雷探査用のUUV「レムス600」と、使い捨ての自走式機雷処分装置が搭載される予定になっています。

海上自衛隊は掃海艦や掃海艇だけでなく、ヘリコプターを使った機雷の処分も行っています。この方法を採用しているのはアメリカ海軍と海上自衛隊だけで、この点にも海上自衛隊の対機雷戦への力の入れ方が現れているといえるでしょう。
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「MH-53E」~画像は海上自衛隊のwebより

現在運用されているMH-53E掃海ヘリコプターは掃海艇などと同様に、掃海具を曳航する方法で機雷を処分しますが、その後継となるMCH-101は光学センサーで機雷を探知するAN/AQS-24Aと、レーザーによって機雷を探知するAN/AES-1航空レーザー機雷探知システム(ALMDS)によって機雷を発見し、使い捨ての機雷処分具で機雷を処分する方法を採用しています。
現代の機雷は高性能化に伴い、機雷処分の方法も発見できていない機雷を一括して処理する「掃海」から、機雷を発見してその機雷の特性を見極めた上で、最も適した方法で処理する「掃討」へのシフトしており、MCH-101の導入により海上自衛隊の機雷掃討能力はより強化されることになります。

資源が乏しく四方を海に囲まれた日本にとって、船舶が海を安全に航行して必要な資源を輸入し、また工業製品などを輸出できるかは死活問題といえます。
今年は10月に海上自衛隊の観艦式が開催されますし、各種イベントなどでも掃海艦や掃海艇、掃海ヘリコプターが展示されます。
掃海艦や掃海艇、掃海ヘリコプターは、「いずも」のような大型護衛艦やP-1哨戒機のような派手さはありませんが、日本人が生きていくうえで、なくてはならない装備。その視点からこれらを見てみると、また違った魅力を感じられるのではないかと思います。

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竹内 修

ライターから不動産シンクタンクを経て、ミリタリー業界に迷いこんできた
自称軍事評論家。サバゲーは長期休業中だが、運動不足解消を兼ねてまた始めよ
うかなと思案する今日このごろ。L85とかF2000のような、ちょっとクセのある銃
が好き。

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