【連載】もと女性自衛官アヤベの「ここだけの話」その3~こだわりのアイロンがけ

自衛官なら誰でも意識している身近なことといえば、何だと思いますか?

――体力練成? それはもちろんだけど、もうちょっと身の回りのこと。
――俺の後ろに立つな? いやいやいや、そういう身の回りじゃなくて。だいいち、隊員はゴルゴ13じゃないですから。

答えは、「プレス」と呼ばれるアイロンがけ

最近でこそ、ノンアイロンタイプの衣類も増えてきましたが、どの職場にもアイロンとアイロン台は必需品。個人的に私物アイロンを持っている隊員も多いんです。

なぜかというと、自衛官には「品位を保つ義務」というものがあって、自衛隊法第58条に「服装を常に端正に保たなければならない」と定められているからなんです。シワだらけの制服や作業服は、大げさに言えば法律違反。(笑)

そういえばつい最近のテレビ番組で、海上自衛隊がある呉教育隊近辺の百円ショップで、洋服をハンガーにつるしたまま使える『アイロングローブ』がバカ売れだと放送されたばかりでした。実はあれ、アヤベが空自の現役隊員だったとき、まさしく持っていたものだったんです! もうね、むちゃくちゃ懐かしかったですよ! そう、購入したのは入隊から一か月ちょっと過ぎた、ちょうど今ごろの時期。

ゴールデンウィークで長崎に帰省して、教育隊のある山口県の防府南基地に戻る途中のこと。
電車の時間つぶしで博多の街をウロウロしていたアヤベは、なぜか手芸用品コーナーに迷い込んでしまいました。そこであのアイロングローブを発見して、「これは便利そう!」と迷わず購入したんです。さすがにまだ百円じゃなかったけれど、お手頃な価格だったことは覚えています。

自衛官生活とは切っても切れないアイロンがけ、人によっていろんなこだわりがあるのです。

まず「アイロンがけは自分でやる派」

これには、クリーニング代がばかにならないので仕方なく自分でやる派と、こだわりがありすぎて自分でやらないと気がすまない派に分かれます。
後者は、好みのノリの種類まで決まっています。クリーニング屋さんだろうが家族だろうが、他人がアイロンがけした服に袖を通すと気持ちが悪くなる、なんて隊員もいます!

とりわけ陸自隊員の奥様たちは「制服、特に迷彩服には触らせてもらえない」という方が多かったですよ。

「クリーニングに出すと、新型作業服は背中の二重になってるところがキレイじゃないし、制服はズボンラインが時々ズレて『線路』ができてることがある」と言っているのは「自分でやる派」のT1曹。
ある休日、自宅で作業服のアイロンがけをしているT1曹が、ふと横を見ると、家族の洋服たちがここぞとばかりにどんどん積み上げられていく! 娘さんの制服のプリーツスカートから奥さんのスーツにブラウス、さらにはハンカチと、T1曹は休日に延々2時間も家族のアイロンがけにいそしむはめになったのだそう。

アイロンがけのみならず、洗濯のタイミングにまでこだわる隊員も。
「うちのダンナは、洗濯をして外には干さず、室内で半乾きになったのを見計らって、そこでアイロンをかけてます」
ここまでくると、口出しせずに、本人の気が済むようにやってもらうしかありませんねぇ。

夫婦で自衛官の場合はどうなのかというと、奥様の分のアイロンがけまでダンナ様がなさっている率が高いような。そういえば、アイロンがけにそこまでこだわっている女性隊員って、見たことがないなあ……。男性のほうが、こだわりはじめるとトコトンこだわるという例かもしれませんね。

続いて「クリーニングに出しちゃうよ派」です。

全国の自衛官は、その数20万人以上。その中にはもちろん、アイロンがけが苦手だったり、それほどこだわらなかったりする大らかなタイプもたくさんいます。そういう隊員は、基地内のクリーニング店でプロに任せてしまいます。

基地によって呼び方は様々なのですが、基地内のクリーニング店には「点検仕様」「検閲仕様」などの特殊用語があります。こちらは一般でいう「固のり」「ハード」タイプのこと。儀式などがあって特別にパリッとさせたいときは、この仕様でお願いするんです。
「返納仕様」というのもありまして、こちらは、国からの貸与物品を返納するときに、ネームや階級章などもきれいに外してくれるというもの。独特でしょう?

連絡先もまた独特。携帯番号ではなくて、職場の内線番号を書くんです。衣類をクリーニングに出したまま、違う基地に転属していっちゃう、うっかり者の隊員が時々いるんですよね。その場合、連絡のあった職場の誰かが引き取って、プンプンしながら送ってあげることになります。

基地内のクリーニング店では、私物の衣類も出すことができます。ここではもれなく全てに「自衛」と書かれたタグがついてくるんですよ。先日、冬物の衣類をいくつか処分していたら、「自衛」のタグがついたままの古いコートを発見して、懐かしくなってしまいました。

自衛官と話す機会があったら、「アイロンがけは自分でやる派」か「クリーニングに出しちゃうよ派」かどちらなのか、ちょっと尋ねてみてください。「自分でやる派」なら、なにか一家言持っていいて、熱く語ってくれるかもしれません。本人にそれほどこだわりがない「クリーニング派」でも、かならず周りには「自分でやる派」の隊員がいるはずなので、話を聞いてみると面白いですよ! うっかりタイプの「クリーニング派」なら、シャツの背中に「自衛」のタグがついたままになっているかもね?!

制服姿ももちろんだけど、作業服姿の自衛官もキリッとして見えるでしょう? それは、習慣になったアイロンがけのなせる業なのです。

イラスト:モノ

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綾部綾

長崎出身、名古屋市在住、元航空自衛官。
ライター&プランナー。
料理と宴会幹事が趣味で、サバゲでは主に弁当、炊事、打ち上げ等の後方支援を担当。

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