小ネタから裏話まで!「ジャンクハンター吉田のアクション映画再評価」~『FURY』編

前回までの『心に残った銃撃名場面ベストテン』も終了し、ようやく今回から最新作の話題に触れられます。そこで、2014年度に観た作品中、事実上ベストワンだった『フューリー』にフォーカスを当てましょう。
ミリタリー好きの方なら当然鑑賞しているという前提で、ガッツリとネタバレ上等ですので、もし未見の方がおりましたら、鑑賞後にこちらを読んでいただければ幸いでございます。

実は既に『フューリー』は劇場で4回も鑑賞済み。あと3回は行きたいと思ってます。筆者をそこまで夢中にさせている理由というのは、散り逝く者たちの熱い覚悟に心動かされたから。
戦争系映画というのは基本、物語に変化球もなければ女っ気もなく、そのフォーマットを踏襲しつつ現在まで作られているのですが、『フューリー』に関しては戦争映画のフォーマットを活かしつつ、女性ファンの多いブラッド・ピットが主役。何の前知識もなく観に行って、えらいことになってゲンナリ状態で劇場から出てきた女性たちが多くいたそうです。

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では、恒例の筆者独断の名場面へ移らせていただきましょう。

冒頭でウォーダディと愛称付けられているブラッド・ピット演ずるドン・コリアーが全滅しているフリをして、油断していたドイツ軍将校をナイフで殺すシーン。それがクライマックスの十字路で死体のドイツ兵を燃やしてシャーマン戦車の中の兵士たちも死んでいると油断させてからの奇襲攻撃が、作品の頭と最後でオーバーラップしている部分。観客側がフリダシへ戻される感覚となり、作品そのものをクライマックスへ用いる表現としては説得力が強いのではないでしょうか。

モブキャラ扱いに近かったクリント・イーストウッドの息子、スコット・イーストウッド演ずるマイルス軍曹が、占拠した街で床下からの射撃であっけなく地味に殺されてしまいます。でも、このシーンがあったからこそ、火傷だけで絶命するはずのドイツ兵をわざわざシャーマン戦車の機銃で撃つ”怒り=フューリー”へ変わって行くローガン・ラーマン演ずる新兵ノーマン・エリソンの心境変化。

さらに追い打ちをかけるべく、恐らく女性を知らないノーマンだから惚れてしまったであろうエマ。ドイツ軍は爆撃を行い、FURY号(シャーマン戦車)の左脇へ身を伏せるノーマン。爆撃が止んだと同時にエマのいたアパートへ駆け寄るシーンのカメラワークが左砲塔の「FURY」の文字へフォーカスを当てるようにしており、結局ノーマンが好きになったエマが爆撃で絶命します。
その”怒り=FURY”と、言葉で表現していませんが、戦車というオブジェクトを使っての意思表示を演出的に行っています。すぐさまFURY号へ乗るように命じられたノーマンを追いかける視点のカメラワークが、今度は右砲塔の逆サイドに刻まれた「FURY」文字を目立つようにフォーカス。
一度観ただけでは気付かないと思いますが、デヴィッド・エアー監督が視点を上手に変えながらイマジナリーラインを壊さない撮影手法はお見事。つまり、ここでノーマンが兵士として完全に目覚めるターニングポイントで、『フューリー』という映画のタイトルはまさにこのシーンをクローズアップして付けられたとしか思えません。

シャーマン戦車部隊vsティーガーの戦いでは、前面100mmの厚い装甲で砲撃を余裕で跳ね返すティーガー。戦車マニアには「今さら」な知識なのですが、それなのに前へ前へ出て戦闘を繰り広げる不可解さがありました。正面からならほぼ無敵なので移動する必要性がないわけです。サイドからバックを取られるティーガーのバカさにイラっときましたが、小隊で動いていたシャーマン戦車が数台いたこともあり、早く始末するべく前へ出てきたと解釈をすればティーガーの行動にも納得が行きます。

十字路で地雷を踏んだFURY号は絶対絶命のピンチに陥ります。ボスであるドンだけが任務遂行を最優先していたことから1人で残り、カミカゼ的に少しでも食い止めて死ぬつもりでしたが、5人の結束力が強く、死ぬのを恐れながらも覚悟を決めるシーン。よく観ると連中は涙目になっているではないですか。あと少しで戦争も終わると分かっているからこそ死にたくない気持ちが先走る名シーン。
ここから先はサム・ペキンパー監督の大傑作『ワイルドバンチ』のクライマックスに対するオマージュが待っているのですが、米兵はあの状況なら99%逃げ帰っているはずです。なので、映画ならではのフィクション的娯楽要素と解釈すると散り逝く者たちの行動にも納得が行くかと思います。

十字路で地団駄踏んでいる最中、武装親衛隊の戦闘大隊がやってきますが、パンツァーファウスト(携帯用対戦車兵器)を用意している兵士がいるのに、最終的に1発しか当たってない・・・。つまり、ドイツ兵は動けない目標に対してあれでいいのかと。
至近距離から側面へ発射したパンツァーファウストは命中しましたが、不発なのか貫通してジョン・バーンサル演ずるグレイディ・トラヴィス絶命させただけ。そもそもパンツァーファウストは爆風の熱を集めて装甲板を溶かし、内部に高熱の爆炎を吹き込むしくみ。弾頭の貫通はありえません。

根本的にFURY号1台を破壊するのにドイツ兵たちは近寄って戦闘しすぎで、4度観ても無駄な動きしかしてない、死ぬためだけのモブキャラにしか見えません。ベルリン直前まで攻め込まれて切迫されていたドイツ軍からすれば、早く始末しないと自分たちの身の危険もあった・・・という優しい解釈をすると納得行くかもしれませんけど。
ここで気になったポイントは、スナイパーがほふく前進で接近し、ドンを狙撃しようとするシーン。あれはあきらかに『スカーフェイス』のクライマックスにおけるトニー・モンタナ殺害に対するオマージュな気がしましたがどうなのでしょうね。

自分なり解釈ができず、納得行かないシーンもあります。ドイツ兵は最後はグレネードを砲塔ハッチから投げ入れますが、先に殺されたシャイア・ラブーフ演ずるボイド・スワンの死体もドンも黒焦げにもズタズタにもならず、特にドンはキレイな顔のまんま死体としてシャーマン戦車内へ残っている。あのシーンは本作最大のミステイクな気がします・・・が、主役のブラッド・ピットを汚すわけにいかない配慮と考えれば、それはそれで仕方なかったのかなと。エアー監督もきっと納得行かないまま、渋々了承したように思えます。

最後にノーマンは車体底から脱出するも、ドイツ兵にフラッシュライトを当てられて見つかります。が、あれは相手のドイツ兵も若い兵士だったからわざと見逃したのでしょうか? それともノーマンが両手を挙げていたから反撃しないとわかって降参と理解して見逃したのでしょうか?
デヴィッド・エアー監督自身が執筆している本作のノベライズを読めば、このシーンも理解できるのでしょうかね。何度観ても1番気になってしまう部分。

『フューリー』のダメな部分も一緒にクローズアップしましたが、作品愛があるからこそ細かく解説してしまいます。あくまでも個人的見解ですから気にしないでくださいませ。

本作は説明的な演出を一切入れないストイックな内容ですが、人を殺したことのない新兵ノーマンの視点が最終的にストーリーテラー的描写になっている部分の表現も大変楽しませてくれました。デヴィッド・エアー監督は海軍出身であり潜水艦勤務をしていたことから『U-571』の脚本へ参加し、そして『エンド・オブ・ウォッチ』でもパトカー内での閉鎖的空間を演出。そして『フューリー』では戦車内で同じような演出をやっています。
海軍での潜水艦勤務経験を活かし、上手く自作への演出に役立つよう心がけているエアー監督は、今ハリウッドで狭い空間を使った演出をさせたらトップクラスの実力者とのお墨付きがあるそうです。

ジャンクハンター吉田
http://www.junkhunteryoshida.com/
1月23日、夜9時からパッキー小林と共に『炎のディスクコマンドー』生放送をやりまっせ! お題は去年のベストムービーだった『フューリー』です。しかもゲストは……二代目林家三平師匠でございます! 三平師匠がミリタリー話するのはお初ですよ!

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ジャンクハンター吉田

ジャンクハンター吉田
書籍『ゲームになった映画たち』シリーズ(三才ブックス、マイクロマガジン)の著者であり、ゲーム・映画のコラムニストとして活動するかたわら、体を張ったフリーのジャーナリストとして数々の無茶ぶりなオーダーもこなす。殉職したらロボコップ計画へ自分の身体をドナーとして全て提供するつもり。

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